くらし・生活

2018.03.14

「ヒートショック」の原因と緩和策とは?

「ヒートショック」の原因と緩和策とは?

「ヒートショック」を知っていますか?
ヒートショックとは、急激な「温度差」によって体に起こる悪影響のこと。動脈硬化が進みやすい持病がある人などが、温度差によって急激な血圧の変化にさらされて、心筋梗塞や脳梗塞、不整脈などを起こすことが発症します。寒くなる冬場には発生率が格段に高くなるので、特に注意が必要です。

「ヒートショック」を引き起こしやすい場所

入浴時だけじゃない、住宅内に潜む「ヒートショック」のリスク

気温の低い冬などは、浴室だけでなく住宅内の様々な場所で生じる急激な「温度差」が急激な血圧の変化を引き起こし、「ヒートショック」の原因になる場合があると言われています。

  • あたたかいリビングから廊下に移動したとき
  • 冷えた身体で熱い湯船に入ったとき
  • あたたかい風呂場から寒い洗面室に移動したとき

死亡者数は、11年間で約1.7倍増加!

ヒートショックが原因と推測される入浴中に亡くなる人の数は、11年間で約1.7倍増加しており、現在では交通事故死者数よりも多い数字となっています。

―近畿大学 岩前教授に聞きました―
冬の住宅に潜む「温暖さ(低温)」のリスクとは

岩前 篤 教授(近畿大学 建築学部学部長 建築環境システム研究室)
昭和36年和歌山県生まれ。昭和60年神戸大学院工学研究科を修了後、大手ハウスメーカーに入社し、住宅の断熱・気密・防露に関する研究開発に携わる。平成7年、神戸大学にて博士号を授与。平成15年春に同社を退社したのち、近畿大学理工学部建築学科に助教授として就任。平成21年に同教授、平成23年に新設された建築学部の学部長に就任。

ヒートショックだけでなく、冬時期の「温度差(低温)」が健康によくない

岩前教授によると、ヒートショックと呼ばれる循環器系、血管系の病気以外にも呼吸器系、内分泌・代謝など様々な疾患が原因で11月~2月の冬時期に亡くなる人が多くなっていることが分かっているのだそうです(図1)。

「夏時期に熱中症の話題がメディアで大きく取り上げられますが、熱中症死亡者数はここ数年で一番多い平成22年でも1,731人です(図2)。熱中症に注意することはもちろん大事ですが、冬の気温低下による健康被害のリスクは熱中症よりも大きいことを認識し、"低温"状態を作らない環境を構築することが重要と言えます。」

あたたかい部屋ほど体の不調が改善したという、調査事例も

「私が以前行った調査で、新築戸建て住宅に転居した家族を対象に転居前と転居後の体の状態についての変化を調べた結果、断熱性の高いあたたかい部屋になるほど、体の不調が改善する結果となりました(図3)。」

【日本人は「寒さ」を我慢する傾向がある】

岩前教授によると日本と海外では、寒さに対する考え方がそもそも違うそうです。 「欧米の人は"寒さは人を弱くする"という考え方のもと、冬時期は暖房をつけっぱなしにしていたり、断熱にも力を入れていますので低温(温度差)による健康被害のリスクは低くなっています。アメリカの州では法律で室温を規定していたり、イギリスでもHHSRS(Housing Health & Safety Rating System)を施行し、室温が低いことで健康に害を及ぼす様々な症状が発症することから部屋の温度を高くして暮らしてくださいというメッセージを発信しています。それは国として生活者に暖房によるエネルギーや費用は増えるけれどその分、医療費が減るので国にとっても生活者にとっても幸せなことですよと言っているのです。

しかし、日本人は"寒さは人を強くする"と考えて寒さを我慢する傾向にあります。以前、私の研究室で、札幌から大阪まで、冬場の寝室の温度を調査したところ、10℃前後が多いことが分かりました(図4)。これは就寝時に暖房をきってしまっていることのあらわれと言えるのではないでしょうか。深夜に起きたときの低温による危険やヒートショックが原因でかかる医療費のことを考えれば、暖房をつけっぱなしにしていたとしてもその電気代の方が圧倒的に安いのに、命をかけて寒さを我慢しているというのが現状です。節約を考えるのは大事ですが健康のためには欧米のように暖房をつけっぱなしにすることが有効だと私は考えています。」

【温度6℃~13℃】
一般的な日本戸建ての温度帯

【温度15℃~18℃】
日本戸建てに比べて気密性の高い一般的な日本マンション中間階中部屋の温度帯

【温度20℃~25℃】
住宅の気密性が高く暖房をつけっぱなしにしている一般的な欧米の住宅の温度帯

―世界と比較―
日本の住宅に適したあたため方とは

岩前教授の解説にあるように日本と海外では寒さに対する意識が大きく違うようです。欧米では「寒さは人を弱くする」という考えのもと、冬の間中、暖房をつけっぱなしにしているように、国や地域、また文化が違えば、空調に求めるものも変わってきます。世界150ヶ国以上に空調を販売し、世界の空調文化を知るダイキンが日本と海外の空調の違いについて解説します。

居室をあたためるだけが主流の日本、全館空調で家じゅうあたたかいアメリカ・ヨーロッパ

アメリカでは1つの大きなエアコンで温度調節をした空気を居室・非居室にかかわらず、家じゅうの隅々まで送る、全館空調システムが主流となっています。アメリカでは、日本よりも電気代が安いため、暖房をつけっぱなしにしていても日本のように電気代を気にする必要があまりないのです。また、ヨーロッパでは1つの給湯器でお湯を作り、家じゅうの床暖房や、ラジエーターに一斉にお湯を流して空調しています。アメリカでもヨーロッパでもリビングや寝室だけでなく、冬の寒い期間中は住宅内の隅々まであたたかくする全館空調システムが一般的な空調文化となっているのです。

一方、高い省エネ性が求められる日本においては、家じゅうを常に空調するという考え方はあまり受け入れられておらず、日本では一般的にエアコンは居室向けの設備として、リビングや寝室、子ども部屋などで使用されています。そのため、リビングや寝室などエアコンのある場所と廊下やトイレ、脱衣室などエアコンのない場所に温度差が生じてしまっているのが現状です。

日本の住宅におすすめの方式は「全室空調」

日本の住宅環境においては、欧米のような全館空調ではなく、生活スタイルに応じてその空間の状況に適した使い方で、せまい日本の住宅内の洗面室や廊下などの小スペースでも取り付けられるエアコンを活用して非居室空間も空調する「全室空調」をお勧めします。「全室空調」であれば、それぞれの部屋ごとに操作が可能なので無人のときには切っておけば、省エネ・低コストにつながります。また、大抵の家庭ではリビングや寝室などの空間にはすでにエアコンを設置している状況なので、現在、使用しているエアコンはそのまま活用して、これまで非居室だった空間に設置していくだけで済むのもポイントです。

ヒートショックの緩和策のひとつとして、
家じゅうの温度差を抑えることが有効

家じゅうの温度差を抑えることが、ヒートショックの緩和のために重要です。たとえば廊下や玄関のようにエアコンが設置しにくい場所にも、床暖房やパネルヒーターを設置するなど、さまざまな暖房設備を上手に使い分けたり、組み合わせることで、家じゅうを快適に空調することができます。これまでエアコンが設置できないとあきらめていた場所にも設置できる、小空間用のエアコンなどもあるので、上手に取り入れて、家じゅうをすみずみまであたためてください。

さまざまな暖房設備を上手に組み合わせて、「温度のバリアフリー化」を

部屋間の段差などを減らす、「住まいのバリアフリー」だけでなく、部屋間の温度差を抑える「温度のバリアフリー」にも配慮した住まいは、家族みんなの身体にやさしく暮らしやすい住まいです。
エアコン、床暖房、パネルヒータなど、さまざまな暖房設備を上手く組み合わせて、温度差を抑えてください。

〜 組み合わせ例01 〜
玄関・脱衣所には、パネルヒーター

外の空気が入りやすい玄関や、入浴時に服を脱ぐ脱衣所は、特に寒暖差が生まれやすい場所。パネルヒーターなら自然対流で、足元からしっかり暖まります。

〜 組み合わせ例02 〜
玄関・廊下・リビングには、床暖房

玄関や廊下など、住まいの導線となる場所には床暖房を設置することで、足元から暖かく、気持ちよく家の中を移動できます。リビングから廊下に出るのが寒くて辛い、ということもなくなります。

〜 組み合わせ例03 〜
リビングなどの居室には、エアコン

空間が広く、家族が長い時間を過ごすことが多いリビングや和室、寝室などには、エアコンが適しています。包み込むように部屋全体を暖かくしてくれるので、長時間居ても、家族みんなが快適に過ごせます。

小空間でも設置できるエアコンを上手に活用

制約の多い空間でも設置可能
2畳の脱衣所や半間幅の廊下でも照明などに干渉しない最大寸法:460mmを達成

あたたかい部屋から遠隔操作で、温度差を事前に回避

長時間滞在する部屋ではないからこそ、無線LAN接続機能を標準搭載し、他室や外出先からもスマートフォンでエアコンを操作できるようにしました。アプリでウィークリータイマーを使い、平日と休日の生活パターンに合わせて、毎日自動で運転をする事もできます。あたたかいリビングから寒い脱衣室を事前にあたためておくことも可能です。